オーガナイザーから

第31回万有仙台シンポジウム
科学に貢献する有機合成化学:有機合成化学の現代的価値を考える

第31回 万有仙台シンポジウムOrganizer
東北大学大学院理学研究科 生命科学研究科 教授 上田 実

万有仙台シンポジウムも30回を越え、次のステップに歩を進める時期を迎えました。この30年間、有機化学、有機合成化学はいくつかの変化を経験しましたが、基本的にはあまり大きな変化がなかったように見えます。一方で、周辺科学は大きな変革期を経験し、ゲノム科学を始めとするビッグサイエンスの勃興、データベースの整備とAIの活用など、一昔前の研究者にとってはだんだんとキャッチアップが難しくなりつつあります。かつての有機化学にも、有機電子論や機器分析の導入が大変革をもたらした時代がありました。このような時代の変革期は、新しい才能が世に出る大きなチャンスでもあります。
私は、学問というものは、常に時代の流れの中で、周囲の変化に揉まれて形を変えるダイナミックなものであると思っています。変わらない部分も大切ですが、変わる部分がない学問は「死に体」です。二つが上手くバランスしているのが、ロバストでダイナミックな「元気のある」学問と思います。その意味で、有機合成化学という分野は、ダイナミックに変貌する周辺科学からの要請にキャッチアップする柔軟性にやや乏しいのでは、と懸念します。
時代が変われば、求められるもの、重要視されるもの、は変化します。野依良治先生の言葉に、「事実の発見」よりも「価値の発見」にこそ意味がある、というものがあります。現代における有機合成化学の価値と求められるもの、を改めて問い直してみませんか。基礎科学が追求する本質に変化は必要ない!というありがちな意見は、もしかしたら単なる思考停止なのかもしれません。基礎科学として大事なことは何か、自分の意見と見識をきちんと持つことがこれからの時代には大切です。
第31回万有仙台シンポジウムでは、有機合成化学の「イケイケ」時代に有機化学教育を受け、現代の研究を推進する私と同世代の研究者と、これからの時代を先導していく若手研究者を講師に迎え、有機合成化学の現代的価値、について思いを巡らせる機会を提供できればと思っています。