循環器領域 2004年受賞者

海外留学助成 循環器領域
留学紀行文

松井 裕
2004年受賞者
心不全の分子機構の解明
北海道大学遺伝子病制御研究所
マトリックスメディスン研究部門
特任准教授 
松井 裕
2004年4月から2006年3月までの2年間、米国ニュージャージー医科歯科大学で研究留学をする機会を得ました。所属ラボのprofessorである佐渡島純一先生は、心肥大、心不全の分子機構、特にシグナル伝達系についての仕事を精力的に続けられ、その分野では世界をリードする研究者の一人です。私は1. 心臓におけるオートファジーの機能解析、2. Mst1シグナルの下流としてのLats2の心臓における機能解析、という二つの研究プロジェクトに従事しておりました。それぞれの研究の概略を示します。まず、オートファジー(自食作用)はユビキチンプロテアソーム系とならぶ生体内蛋白分解システムのひとつで、一般的には栄養飢餓などの環境の変化で誘導され、変化に対応して蛋白を分解しそれを再利用することで細胞や組織に保護的に働くと考えられているのですが、最近オートファジーと細胞死との関連についても報告されてきており、更に心臓におけるその役割は全く不明でした。今回の研究により、培養心筋細胞及び心臓では、糖飢餓時及び虚血時にはAMPKmTOR経路を介してオートファジーが誘導され細胞や組織に対し保護的に働きますが、虚血再灌流障害時にはbeclin-1依存的かつAMPK非依存的経路を介してオートファジーが誘導され逆に組織障害的に働くことが示唆されました。次に、セリンスレオニンキナーゼのひとつMst1は、虚血再灌流障害時などのストレスで活性化する分子で、その心臓における過剰発現は心不全を引き起こすことから、心不全の進行に重要な役割を果たしていると考えられているのですが、その下流のシグナルは不明でした。今回の研究により、培養心筋細胞でLats2を過剰発現するとアポトーシスを起こすこと、マウス心臓でLats2を過剰発現すると代償性心肥大を伴わない心不全を起こすこと、またドミナントネガティブLats2の発現はMst1による心筋細胞の肥大の抑制とアポトーシスの増加をいずれも制御することから、心臓においてLats2はMst1のシグナルの下流に位置していることが示唆されました。

今回の留学では、上記のような研究に従事できたこと以外にも、日本では経験し得ない様々な体験をすることができました。このような貴重な体験を今後の研究や生活に役立てていければと思います。最後になりましたが、この留学を行うにあたり多大なるご支援をいただきました万有生命科学振興国際交流財団に心より御礼申し上げますとともに、貴財団の益々のご発展をお祈り申し上げます。