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留学紀行文

大森 崇

2004年受賞者
Harry A. Guess教授とともに過ごした一年間

京都大学大学院 医学研究科 准教授 大森 崇

私は2004年9月1日から一年間ノースキャロライナ大学のHarry A. Guess教授のもとで薬剤疫学の研究を行わせていただきました。医療統計学を専門にしている私にとって、当時疫学という学問は得意ではありませんでした。一方で、薬の安全性に関心があり、この学問の必要性を感じていました。Guess先生は薬剤疫学の専門家ですが、統計学の知識も深く、私が考えていることをいつも興味をもって聞いてくださいました。研究だけではなく、アメリカでの一人暮らしを奥さんのGerryさんとともに全面的にサポートしてくださいました。アパートが見つかるまではご自宅の一室をお貸しくださり、その後もよく招いてくださいました。週末にはよく先生と二人で大学チームのフットボールやバスケットボールの試合を見に行きました。大学では、私は先生の授業を聴講とゼミへの参加が許されました。また、先生ご自身が参画されていた共同研究にも関わることで、私の専門知識を発揮できる場も与えてくださいました。英語の壁は大きな問題でしたが、なんとかしようといつもビジュアルなプレゼンテーションを作っていったことを喜んでいました。研究も順調に進み、私たちはとてもよい関係がその後ずっと続くことを確信していました。そんな生活に突然変化が起こったのは6ヶ月目のことでした。おかしな咳がするというので病院に検査に行かれた先生に肺癌が見つかったのです。先生はすぐに入院し、化学療法を開始しました。かなりきつい抗がん剤と放射線治療でした。退院後、体調がよければ数時間大学に訪れ、ついでにゼミに顔を出すという生活になりました。あるとき学生が文献紹介をしていたとき、議論が白熱してしまったことがあります。いつもは先生がまとめてくれていたのですが、治療のため話すこともままならない状態でした。このとき先生は「コメントを言いたいけど、論文を読めてなくてすまない。自分は悪い学生だ。」と謝ったのです。全員がすばらしい先生のもとにいるのだと確信した瞬間でした。先生は帰国するまでなんとか時間を作り、私の研究をみてくださいました。帰国後もいっしょに研究しようとメールをいただきましたが、その後すぐに状態が悪化し、3ヶ月後に永眠されました。

先生と過ごした一年間は、私の人生の中で特別で大切な時間となりました。万有財団Fellowshipの援助がなければ、先生とお会いすることすらかなわなかったと思っています。このような機会を与えてくださったことに心より感謝しております。

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