留学体験記

  • 国立成育医療研究センター 臨床研究開発センター
  • 小林 徹
  • 留 学 先:Division of Clinical Pharmacology and Toxicology, The Hospital for Sick Children, University of Toronto (カナダ)
  • 留学期間:2012年~2014年(2年間)
【留学を決めた理由】
 ふつうの小児循環器科医のキャリアを積んでいた私でしたが、ひょんなきっかけから全国規模のランダム化比較 試験事務局長として研究の運営に関わることになりました。その流れの中で将来のSupervisorとなる伊藤真也教授(トロント大学)に出会いました。ランダム化比較試験が終了して目の前にずっとあった目標が達成された後、今までとはまったく別の世界を体験したいと思う自分がいることに気づきました。そのことを伊藤教授にお話ししたところThe Hospital for Sick Childrenへの留学をお許しいただき、39歳にしてトロントへ渡ることとなりました。

【留学して良かったこと】
 休みなく働く環境から解放されたことが、自分にとっても家族にとっても一番よかったことかもしれません。10年以上離れていた人間的な生活に戻ることができ、自分自身の人生を見つめ直すよい機会となりました。カナダ国内やカリブ海に何度も家族旅行に行き、一生分の家族孝行をいたしました。

 また、新天地で新しい仲間と出会い、全く違う価値観で考える人たちとふれあい、刺激を受けたことは言葉に尽くせぬ価値があります。トロントで主に取り組んだのは系統的レビューとメタ解析でしたが、今まで知らなかった方法論を学び、新しい世界を見ることができました。この経験は日本に戻った現在の仕事を遂行する上で、非常に役立っております。また、他のDivisionの教授のお口添えで、American Heart Associationのガイドライン作成にも関わることができました。日本のガイドライン作成とはまた違ったお作法に戸惑いつつも、双方の善し悪しを体感でき、貴重な経験となりました。

【留学して苦しかったこと】
 仕事上ではカナダと日本の仕事の両立が最も苦しかったことでした。日本へ残していた複数の多施設共同研究の 運営と論文作成に加えて、留学先での仕事と臨床薬理の勉強、そしてなれない英語でのやりとり、はじめの数ヶ月間は出口の見えないトンネルの中ひたすらもがいているような生活でした。ですが、Supervisorの伊藤教授や同僚たち、そして同じ留学生の仲間たちや家族が私をささえてくれ、何とか乗り切ることがきたように感じています。

【留学を通して学んだこと】
 技術的には既知のエビデンスを整理して発信できるような方法論を学び、いくつかの論文を書くことができました。そして留学先で学んだ最大のことはどうやって多くのstaffを連携し、組織全体をマネージメントしていくかの 姿勢だったように思います。研究者個人としての能力がどんなに高くても、周囲と連携できなければ大きな仕事を成し遂げることはできません。永続的に成果を出し続けるシステムをどのように構築して運営していくか、MotheRiskやCPNDSといった大規模な研究グループの運営を間近に感じることができ、とても勉強になりました。

【後輩達へのメッセージ】
 とにかくめげないこと、あきらめないこと、チャレンジし続けることです。他人を変えることはなかなか難しいですが、自分自身を変え、環境を選ぶことはできます。留学生活は将来への投資と考え、ぜひ一歩前に踏み出してください。