留学体験記

  • 岐阜薬科大学 薬理学
  • 山下 弘高
  • 留 学 先:La Jolla Institute of Allergy and Immunology, La Jolla, USA.
  • 留学期間:2011年~2012年(1年間)
 このサイトを見ている先生方は、海外留学に興味がある先生かと思われます。これから海外留学する方や留学を迷っている方、留学に興味はあるけどなかなかできない方など、いろいろな状況があると思いますが、私の体験や考えが少しでも役立てばよいと思います。

 さて、そもそも海外留学は一つの目標でした。といっても、「留学して一旗揚げよう」とか、「有名な研究者になる」といった志が高いような類(?)ではなく、「研究者は海外留学を経験しなきゃ」とか、「留学っておもしろそう」くらいの感じでした。しかしながら、いざ博士号を日本で取得し大学スタッフの一員になると、日々の業務が 精一杯の状況でした。大学や病院などに所属している先生方の多くは、研究活動以外の仕事が大量にあると思いますし、日本において研究プロジェクトに携わっている場合もあると思います。そのような状況のなか、「抜けても大丈夫なのか?」というような不安があると思います。その様な不安のなか、私の場合は、「自分も海外留学で多くのことを学んできたから行ってきなさい。」といった、上司の言葉に後押しされ、なんとか留学を実行することが できました。留学する前は、日々の業務の多忙さから「留学なんて無理!」と思う時期もありましたが、帰国して2年以上経ちましたが、「留学してよかった」と感じています。

 特に留学してよかったと思うことは、「日本とは異なる研究環境」、「人とのつながり」です。研究施設にはいろいろな国から留学生が来ていましたし、各ラボのボスのバックグランドも様々でしたので、多面的な価値観を感じることができました。アジア系のボスは日曜祝日も出勤していて常に全力疾走ですが、欧米系のボスは秋冬のホリデーシーズンは長期休暇をとりメリハリをつけて仕事をするとか、結果をだせないポスドクが翌月にクビになったり、逆にポスドクがボスと考えがあわないからと辞めていったり、などとても新鮮でした。特に感じたことは、「中国・韓国・インドなどのアジア圏のポスドクが日本人ポスドクより仕事しているのではないか。」、と思うような状況でした。また、中国・韓国のポスドクの数は、日本人ポスドクの数より多く、「日本人ももっとがんばらないと」と
とても感じました。そして、「日々の雑用から解放され(一部はメールで送られてきましたが)、研究にのめりこめる環境ってすばらしい。」と、とても感じました。
 
 人とのつながりは、海外の研究者と知り合いになることは当然ですが、外国にいるからこそ、日本人ポスドクと 親しくなれたと思います。留学先がカリフォルニアということもあって、企業の研究者も多く滞在しており、研究所を超えた日本人研究者の集まりがあり、いろいろなつながりができました。この日本人ポスドクとのネットワークは、今後の研究活動において、特に大きな財産です。
また蛇足ではありますが、私はアメリカに留学しましたので、休暇の時に遠出して(親が遊びに来た時と帰国前くらいでしたが)、日本にはない雄大な自然を感じることができたことは、一生忘れない楽しい思い出です。

 留学先で大変に感じたことは、最初は仕事を任せてくれなかったことです。海外ではボス自身の給料を含め、ラボの運営にかかわるすべての費用を研究資金で賄わなければなりません。当然ではありますが、研究能力がわからない1-2年で帰国してしまう輩に、貴重な研究資金を簡単に投資できない状況でした。したがって、留学当初はあまり研究を任せてくれず、「留学したからにはいろいろやりたい」という思いとのギャップに落胆しました。それでも、少しずつ認められ仕事を任せてもらい、またいろいろ実験技術を教えていただき、貴重な経験を得ることができました。
 
 もちろん留学するにあたって、言語の問題、住居の問題、金銭的な問題などなど、いろいろ不安がありましたが、結果としては、「行ってみれば何とかなる」といった感じでした。まさに「案ずるより産むがやすし」といった感じです。金銭面に関しましては、この「万有生命科学振興国際交流財団」をはじめとして、高額の助成金が多数あります。留学する研究者が減っている現状において、留学したいと考えている研究者の方々は、今がチャンスだと思います。

 もう一点、厳しい意見とはなりますが、日本人ポスドクの多くは「留学で何を学ぶか」に主眼を置いていますが、留学先からは、「ラボに対して何を貢献できるのか」が求められます。技術や考え方などを学びながら、留学先に 技術を提供し結果を還元することが必要です。私の場合は留学先から給料をもらっていなかったのですが、もし給料をもらうのであれば、なおさら求められることでしょう。私が留学当初仕事を任せてもらえなかった原因の一つ
として、その点に対する意識が欠けていたと反省しています。
 
 現在、日本の研究レベルはトップクラスであり、留学しなくてもたくさんの技術を学ぶことは可能です。またそのような国内ラボは外国人ポスドクが多数在籍しているので多国籍な環境に身をおくことができると思います。しかしながら、自ら海外のラボに飛び込み、外国の研究者と話すことや、日本から来て頑張っている日本人ポスドクと話をすることが重要かと思います。さらには、一旦日々の業務から解放され、今後自分がどうしたいのか、どうあるべきかなど考える時間も必要と思います。

 最後にまとめますと、とにかく「留学してよかった。」と感じます。
 もし海外留学を迷っているなら、ぜひ海外へチャレンジしてほしいと思います!